〈検疫所隔離1泊目〉羽田空港の長い3時間。
19時に飛行機は羽田に着いたのだけど、簡単には入国させてくれなくて、検疫所指定のヴィラフォンテーヌ羽田にチェックインしたのは22時。
3時間、長かった。
2度くらい、もうあかん、モロッコに返されるんじゃないかと諦めたくらいの厳しい闘いがありまして、一勝一敗を噛み締めながら、部屋で検疫所弁当をいただいています。
美味いです。
特に数の子が絶品で、普通より柔らかくてちょっとどろどろしているんだけど、かつて味わったことのない刺激的な味。
ちょっと酸味があって、ツンっとくる。
完全に数の子を超えている。
このシェフは一流かもって感心していたら、単なる大根おろしでした。
そんな自分にびっくり。
大根おろしの件は置いといて、今回のコロナ禍の帰国、正直、たいへんでした。
辛かった。
第一ラスボスは、イミグレのはるか手前でのスマホのアプリ関連。
ボクのアンドロイドが虚弱体質なもので、Wi-Fiに繋がらなくて。
ずいぶん長い時間、担当者の若い娘さんと一緒にスマホを見てるんだけど、いつまで経ってもぐるぐるするだけ。
おっさん、これ、ほんとにスマホなの?って、目の声が聞こえるくらいにいたたまれない時間を共有して。
こりゃどうにもならんわ、って感じのアレでモバイルルーターを借りてWi-Fiに繋げたんだけど、どういうわけかGoogleマップが正常に表示できなくて、位置情報の設定ができない。
どんだけ待っても、画面の半分くらいは白いままという牛歩戦術。
途中から、娘さんは目に笑みをたたえたまま、ゴールペンをカチカチカチカチし始めて。
動いてるんだか死んでるんだかわからないスマホをふたりで見つめてて。
田舎はどこですか?
って無駄話をする雰囲気じゃないし。
ボールペンがカチカチカチと時を刻んでて。
「じゃ、Googleマップはひとまず置いといて、このQRコードを読んでください」
って言われたんだけど、
ごめんなさい、QRコード、読めないんですよ、このスマホ。
まじかよ、爺いっ!
と、叫んだかのように、一瞬カッと見開いた目。
QRコードを読み取れないと、入国者健康居所確認アプリ「MySOS」なるものをインストールできなくて、先に進めないんですよ。
で、観念しました。
一度すべてをご破算にさせてもらっていいですか?
起死回生の再起動をしたら、死んだまま復活しないという残念な結果に2回もなったりしたもんですが、なんとか蘇生。
すべてが終わったとき、まわりには誰もいなかったです。
すべてのお客さん、消えてた。Yukoですら。
アプリ関係が終わっても、次から次へと検問が待ち受けています。
歩いても歩いても窓口が出てきて、その都度、パスポートを出せだの、青い紙を出せだの、それは青くないだの、増えてゆくなんだかわからない書類を出したり引っ込めたりして、テキトーに渡すと、それじゃないですって。
やっぱり違ったか。
どんなに見当違いな紙を出しても決して文句を言わなくて、みなさん、たいそうご丁寧。
その落ち着いた声と冷めた目が、胃酸を増やしてくれましてね。
それにしても厚生労働省よ、たかがコロナだよ、なんで、一枚の用紙に集約できないのか。
紙、多すぎ。
出したり引っ込めたり、多すぎ。
第二ラスボスは、がんがんにモメました。
検疫所の隔離は4泊に延長できると聞いていたのですが、いまはできないって。
それは夏の頃の話だって。
そんなことをここで言われても!
「4泊に延長できなくなったこと、HPかどこかに告知してるの?」
って訊いたら、誰にも教えてないけど、そうなんだって。
方針を変えたけど、国民には知らせてないって。
知りようがないけど、それがルールだって。
ってことをこれまた落ち着いた口調で滔々と喋ってまして。
それはおかしいでしょうって言っても、安倍元大統領の答弁みたいに話が噛み合わないという匠の話術で。
オリンピック関係者にはあんだけずるずるだったのに、なんだかなあ、ですよ。
自主隔離宿に連絡がついたからなんとか入国できたんだけど、そんなこんなの「慇懃無礼な壁」に阻まれた検疫所だか厚生労働省だか羽田です。
そういえば、空港のコロナテストは唾です。
試験管に1センチくらい唾を出さなくちゃならんのですが、唾って出そうと思ってもなかなか出ないですね。
顔全体に力を込めて振り絞ろうとすると、壁に注意書きが。
「痰はダメです」
じゃあってんで、口のなかの水分を舌先に集めていたら、
「泡はダメです」
壁に梅干しとレモンの写真が貼ってあるんだけど、そんなんで唾が出る人、いるんだ?
これから帰国する人は、唾を出す練習をしといたほうがいいかも。
Yukoが唾ブースから出てきたときは、会場に誰もいなかったです。
ボクでさえ。
無駄に長い日記でごめんくさい。
疲れたぶん、興奮してしまった。